子育てに風穴を開ける ~ポーテージプログラムが取り組む発達支援と親支援~

認定スーパーバイザー 山下由紀恵

abuse prevention

「こんにちは赤ちゃん」 親と子どもと、見守る人たち

発達相談の場で出会う親子と相談員には、不思議な緊張感があります。子どものことを話し合いながら、時に相談員は家族の抱える強い不安や孤独・うつと向き合うこともあります。
今から十年以上前から、育児の閉塞感と不安に立ち向かい、子育てを支援する専門職体制に向けた、大きな法改正が続いています。平成二十年に生後四か月までの「乳児家庭全戸訪問事業」、いわゆる「こんにちは赤ちゃん」事業が法制化されて以降、子ども虐待による死亡事例数が最多年度の半数以下に減少していることは、現在の「子育て世代包括支援センター」設置につながるひとつの大きな成果といえます。

私は、平成二十年当時の先進的な「こんにちは赤ちゃん」事業に同行させていただいたことがありました。同行した私の受けた印象は、まず保健師と知り合うことで安心感の生まれる訪問であったこと、そして次につながる情報の確かさでした。「こうして訪問すると、健診の時に知り合いに出会う気持ちで親子を迎えられるのですよ」という保健師の話に大きくうなずいたのを覚えています。人として出会い、子育ての密室化を防いで風穴を開け、地域の温かい見守りにつなげていくこと、これは情報化の時代であればなおさら、全ての相談支援者の大事な役割となっています。

子育ての密室化を防ぐポーテージプログラム

しかし、平成二十九年に出た国の「子育て世代包括支援センター」ガイドラインによりますと、市町村の抱える相談支援には、いくつか難しい課題が見つかっています、そのうちの最大課題が「支援プランの作成」です。アセスメントの次に、困難を抱えた親と子のための発達支援プランを、複数機関で連携しつつどう策定していくのか、これが同じ平成二十九年の国の「児童発達支援」ガイドラインに示された、「地域の重層的支援」につながる、現在の大きな山、課題となっています。

この課題を見ますと、本当の意味で「次につながる確かさ」をもって子育ての密室化を防ぎ、風穴を開けていく方法として、ポーテージプログラムの果たす役割は大きいと感じています。初回、乳幼児健診の結果を受け入れられず、孤独をにじませて相談の場に来られた保護者でも、何回か子どもが「できた」ときのエピソードを嬉しそうに報告してくださる姿が続くうちに、家族全体で意欲的に明るい表情になっていかれることを多く経験してきました。本来は子どもが持っていた力です。その力に育てるものの目を持った親として寄り添うことが、何よりの親と子の発達支援になっていました。次の子育て支援の大きな山を乗り越えるために、ポーテージプログラムをどう活かすか、私たちは大いに検討すべき段階に入っていると思われます。

 

山下由紀恵スーパーバイザーは島根県立大学名誉教授、臨床発達心理士、特別教育支援士として活躍、専門は発達心理学。大学で教鞭をとられていた時期には島根県内における乳幼児教育、発達支援において独自の発達手帳「ゆうゆう手帳」の開発をはじめ、誰もとりこぼさないインクルーシブな幼児教育や地域支援の研究・実践にご尽力されていました。2020年10月にはポーテージ相談のための基礎講座では「ポーテージプログラムで育てる発達支援の根」と題して講演され、児童発達支援ガイドラインや幼児教育指針をもとに、横に・縦につなぐ発達支援の理解の基本を専門的・実践的に示され、大好評を博しました。(広報)