「理解ある他人」を子育てに取り入れる

日本ポーテージ協会 認定スーパーバイザー 荻原 稔

 普通の子育て?しばらく様子を見ましょう?

ちょっと昔、でもまだ30年も経っていない前のことです。ダウン症の赤ちゃんを抱えた親に、「普通の子と同じように育てましょう」といった医師がいました。初めての子育てなので「普通」がどこにあるのかもわかりません。「しばらく様子を見ましょう」ともいいました。しばらくとは、いつまでか。様子を見るとは、何もしないのか。何か具体的な行動を起こす力を、その人から受け取ることはできませんでした。ひょっとしたら、今でもどこかでこの言葉が話されているかもしれません。

どうしたらいいのかもわからず、「普通」かもしれないことを求めて、手探りで障害のある子どもを育てようとすれば、思うようにいかないことばかりに出くわします。赤ちゃんが「うとうとしているだけでこっちを見ない」と思うだけでも不安になります。生まれてから半年間、赤ちゃんの顔を見ては泣いていたというお母さんがいました。そして、少し大きくなってくれば、言うことを聞かないのはしょっちゅうです。どうしても何かをやらそうとすれば、怒鳴るでしょう。それでダメなら、叩いてでもわからせたいです。次はエスカレートするに決まっています。虐待なんて、どこにでも起こることです。

 生活している場でのちょうどいい働きかけ

どうしたらいいのかわからない人にとって、やることがはっきりすることほど、元気になることはありません。自分たちの力で見つけるのが難しければ、他人の力を借りるのが正解です。でも、ご注意、ここでも「普通」のことや、逆に「超特別」なことをささやく人がいるかもしれないのです。誰でもいいから励ましてくれればいいというものではありません。障害のある子に限らず、どの子にとっても必要なのは、ただの「普通」のことでも「超特別」なことでもなくて、その子が生活している場での、タイミングの合った丁度いい働きかけです。いつでもベストとはいかないまでも、今ここの環境を活用しながら、そこで可能で無理のない「今、その子向け」の手立てを親たちと共に探っていく、そういう「理解ある他人」が必要なのです。

ポーテージ相談員は、子どもとご家族との継続した面接によって、その子が生活している場への理解を深めつつ、「今、その子向け」のやることを示していくのが職責です。「理解ある他人」の第一選択として、ポーテージ相談員が育児に関わっていけるなら、子どもと一緒に親も元気になるでしょう。それは、虐待を防ぐことでもあるのです。

 

荻原稔認定スーパーバイザーは東京都羽村市在住で長年都立特別支援学校での教師を勤め、退任後の現在は特別専門講師としてご活躍されています。現在も年に4回立川支部の相談ルームでポーテージ相談を行っています。本人や家族のニーズを見出し、幅広い年代のお子さんに学校生活や余暇活用についての的確なアドバイスをされています。羽村市社会教育委員、国立市しょうがいしゃの権利擁護に関する調整委員会委員、保護司など幅広くその見識を役立てています。日本ポーテージ協会監事。(広報)