ポーテージ×インクルージョン③

インクルーシブ教育を再考する

日本ポーテージ協会 理事

大塚 晃

国連からの勧告を受けて

2022年9月9日、国連・障害者権利委員会は、8月22・23日に実施した日本政府への審査を踏まえて、政策の改善点についての勧告「日本の第一次報告書に対する最終見解」を公表しました。委員会は、障害のある子どもたちの分離された特別教育の存続により、障害のある子どもたち、特に知的または心理社会的障害のある子どもたちやより集中的な支援を必要とする子どもたちにとって、通常の環境での教育はアクセスしにくいものになっており、通常の学校における特別支援教育クラスの存在も同様であることに懸念をもっているとされています。

その結果、分離された特別な教育をやめる目的で、教育に関する国家政策、法律、行政上の取り決めの中で、障害のある子どもがインクルーシブ教育を受ける権利を認識し、すべての障害のある生徒が、あらゆるレベルの教育において、合理的配慮と必要とする個別の支援を受けられるように、特定の目標、時間枠、十分な予算で、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること強く要請する内容となっています。国連・障害者権利委員会の日本への勧告は、日本の特別支援教育に関しては、相当厳しい内容のものとなっています。

国連の方向性と我が国の2つの課題

国連・障害者権利委員会の主張するインクルーシブ教育システム(inclusive education system)が、人間の多様性の尊重等を強化し、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであるとすれば、その方向性は否定しがたいものです。その目標をどのように実現するかは、各国に委ねられている課題と考えています。イタリアのように、すべての障害児を通常学校・通常級で教育する(「フル・インクルージョン)と言うらしい)仕組みを実現している国もありますが、多くの国は、目指す目標の途上にあると言えます。わが国が、インクルーシブ教育システムを実現するためには、2つの大きな課題があると考えています。

特別支援教育の構造的な課題

一つは、学校教育法第七十二条が、特別支援教育を「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技術を授けることを目的とする。」としている課題です。特別支援教育を、専ら特別支援学校における教育とし、「準ずる」教育とするところに課題があります。「準ずる」教育である以上、主流とされた教育にいかに含まれる状態にするかという「構造的」な課題が残る仕組みとなっています。いわば、永遠にインクルーシブな環境に含まれることを求める仕組みとなっているのではないでしょうか。

また、インクルーシブな教育システムが、障害児を含んだ多様な教育的ニーズをもつ子どもたちを対象とした、一本の主流化された教育システムであるとすれば、障害児教育などの「障害」という言葉も使うのも適切でないでしょう。むしろ障害も含んだ多様な教育的ニーズをもつすべての子どもを対象とした「特別支援教育」でない教育となります。この意味で、インクルーシブ教育の課題は、特別支援教育の課題というより、一般教育全体の課題と言えるのではないでしょうか。

環境整備の現実的な課題

二つ目は、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指しながらも、授業内容が分かり、学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていける環境をいかに整備していくかという「現実的」な課題です。一緒の「場」には含まれたが、個々の子どものニーズが満たされない、いわゆる「場」だけのインクルージョンの課題です。この課題については、対象者としての子どもの障害種別のみならず個々のニーズの多様性にも配慮しなければなりません。特に、建物・設備などハードの環境整備と教育内容・支援方法などのソフトの環境整備には異なりがあります。更に、それは各自治体・各学校・各教員による異なりとして現れる「現実的」な課題であるとも考えています。

教育的ニーズに応えるオプションという視点

このような「構造的」・「現実的」な大きな課題に対して、わが国の特別支援教育はよく工夫されたものであるとも言えないでしょうか。日本の特別支援教育がインクルーシブ教育であるかどうかは別として、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある子どもに対して、その時点での教育的ニーズに応えるオプション(通常級・特別支援学校・特別支援学級・通級など)を提供しようとする、多様で柔軟な仕組みを志向していると言えるかもしれません。

誰一人として排除されない共生社会を構築していくためには、子どもの頃からともに学ぶ環境としてのインクルーシブ教育システムが重要です。逆から言えば、子どもの頃からともに学ぶ環境としてのインクルーシブ教育は、大人の社会が共生的なものを志向しているかにどうかに懸っていると考えます。その意味では、大人の社会に解決すべき多くの課題が残っているようにも思えます。

 


日本ポーテージ協会は,障害のある人達の権利条約とインクルージョンについて,今後もご案内していきたいと思います(広報)

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