子育てに困難さのある親御さんから学んだこと

 

 日本ポーテージ協会 認定スーパーバイザー
木村 将夫

 市役所の子ども虐待の通告窓口で知った子育ての行き詰まり 

私は市役所の職員として、子ども虐待対応の通告窓口で、虐待を受けた子どもの面談やその加害をした親への警告や相談、また児童相談所、保育所や学校園の職員の方々と関わってきました。

虐待をしてしまった親御さんへの対応を行う場で、「何度も言っても、言っても、同じことをするから叩いたんや!なんでしつけを虐待って言われないといけないんや」と、親御さんから怒鳴られることがよくありました。

私は通告窓口の担当者の経験から、虐待をしてしまった親御さんから、子育てについて多くのことを学びました。子育ての中で、どうしても、どうやっても、なんともできないから、叩いてしまう場合が多いです。初めから子どもを叩く親はほぼいません。最初は、言葉で伝えて、根気強く、望ましくない行動を減らそうと努力をしていることが多くありました。どの親も叩いてはいけないことはわかっています。どうしても子どもの望ましくない行動をやめさせるために、最終的に体罰や暴力をしてしまうことが多くありました。それ以外に方法がなかったのです。

「子育ての方法を知る」を支援する親支援を探して 

私が虐待対応の中で出会ったあるお父さんは、一見して暴力的な方ではありません。ただ、お話をすると、自分も母親の再婚相手から虐待を受けて育った、子どもは叩きたくなかったけど、何度言っても聞かないから叩いたと、言っておられました。そのお父さんは誰にも相談もせず、その必要性も感じていませんでした。頼る親族も知人もなく、家庭が社会的に孤立していました。

もちろん、虐待対応では子どもの命を守ることが最優先です。ただ、虐待の加害者の親を指導したり、罰したりすることだけでは、子育ての方法は変わりません。叩く以外の方法がないから、叩くのです。私も通告窓口の担当者として、そのジレンマを感じ続けながら、業務を行っていました。そんな時に出会ったのがポーテージプログラムでした。

みんなで一緒に子育てをすることにつながったポーテージプログラム

私はポーテージに8年前に出会い、このお父さんとお母さん、保育園の先生と『新版ポーテージ早期教育プログラム』を実施しました。子どものことをよく知る保育園の先生と、両親と共に、子どもの今できていること、できていないことをチェックリストを用いてチェックし、何を子どもに身につけさせたいかを一緒に相談しました。行動目標を選ぶ中で、その行動を教えるために子どもにどんな援助をするか、具体的な方法を一緒に考えます。

まずは保育園で取り組み、定着してきたらご家庭で取り組んでもらいます。これを継続することによって、親御さんの子どもの見方や関わりが変わり、子どもの成長を実感されました。子ども自身も変化しました。家庭と保育園で、子どもの目標が一致でき、親御さんは保育園に手伝ってもらったり、相談する機会が増え、自然と叩くことはなくなりました。

叩かずに、子どもに罰を与えるかわりに、どうかかわったらいいかわからないことから、子ども虐待に至ってしまう家庭が多くあります。孤立して子育て行き詰ってしまった家庭に、指導や警告のみではなく、一緒に支える協力者につなぐこと、具体的な子どもへの関わり方を支援者と一緒に考えることが改めて必要だと感じています。

 

木村将夫認定スーパーバイザーは大阪府泉南市在住。泉南市家庭児童相談所(子ども虐待防止対応)、泉南市子ども総合支援センター(児童発達支援センター)での発達支援に従事する心理職を経て、現在は特定非営利活動法人 地域福祉創造協会ウインク内の阪南市立たんぽぽ園(児童発達支援センター)・たじりこころ園(多機能型事業所)の両園長として法人事業の運営責任者である。保育所等訪問支援事業や、相談支援専門員としても支援を行っており、地域のクリニックでの心理職としても活動中。公認心理師・臨床心理士・特別支援教育士(広報)