日本ポーテージ協会創立40周年記念事業

創立40周年記念大会開催報告

日本ポーテージ協会の40年の来し方

ー「可能性への挑戦」を通奏低音のようにしてー

認定NPO法人日本ポーテージ協会

 会長 清水直治

 皆様方のご支援・ご協力のおかげをもちまして、日本ポーテージ協会は2025年に創立40周年を迎えることができました。ここに厚くお礼を申し上げます。過日6月21日には創立40周年を祝う会を、そして翌6月22には記念大会を開催いたしました。
記念大会での会長講演は、日本ポーテージ協会の来(こ)し方40年の活動・事業を、この間に出版した著作や冊子をもとに振り返りながら、40年前にはいまだ未開発でその効果も未確認だった、0歳からの早期対応プログラムの開発と有効性の実証を目指す「可能性への挑戦」という主張や動機づけが、“通奏低音”のように常に底流に響き続けていたという述懐でした(“通奏低音”は比喩で、本来の意味とは違うようですが…)。
近年の早期教育の動向は、親や家族のニーズやストレングスを踏まえて、最適な個別支援計画の作成とその実行の時代に至り、産業構造や子育て環境の変わり様を背景に、「子育ての社会化」とその支援が求められるようになりました。これを契機に、創立40周年を起点として、次世代への新たな躍進に繋げるとともに、ポーテージで共に育った仲間たちが“当たり前の共生社会のなかで”、一人ひとりが掛けがえのない存在として、いっそう輝いて活躍してほしいと願っています。

 

パネルディスカッション

日本ポーテージ協会の新たな展望 ー4視点からー

 日本ポーテージ協会 副会長

座長 西永 堅

 日本ポーテージ協会創立40周年記念大会において,「日本ポーテージ協会の新たな展望 ー4視点からー」と題してパネルディスカッションを行いました.視点1「0歳からの発達相談の中で」 桜井直美先生,視点2「幼児教育を行う施設でのインクルージョンの推進」 山下由紀恵先生,視点3「地域へのインクルージョンを進める児童発達支援センター等の役割」木村将夫先生,視点4「『ポーテージ学齢期生活支援ガイド』の開発」 矢作淳子先生の4人の方に,それぞれの視点からお話をいただきました.

やはり,キーワードとしては,「インクルージョンとは何か?」が中心だったと思います.座長を拝命した私からは,初代会長であった山口薫先生の資料を引用させていただき,インクルージョンとは,分離でも統合でもなく,子どもだけではなく,障害の有無に関わらず,すべての人のニーズに応じて,それぞれが支え合う多様な支援のシステムであることを述べさせていただきました.

みんなが同じでなくていい,「みんな違って,みんないい」ことを実践できるように,ポーテージプログラムは,障害や年齢,性別でプログラムを決めるのではなく,目の前の子どもの発達をしっかりとアセスメントを行い,達成可能な行動目標を設定する「個別の指導計画」の活用を重要視しています.また,地域において共に生活できるように,支援の対象は子どもだけではなく,その親やきょうだいなどの家族,そして,保育士や教師などの専門家なども支援の対象としています.

ポーテージプログラムは50年以上の歴史がありますが,さらに持続可能性を大切にし,今後も社会を支えられるよう次の10年も邁進できればと思います.

 

視点1.「0歳からの発達相談の中で」

認定スーパーバイザー 桜井 直美

 ダウン症の娘の親として23年、相談員として13年。どちらの立場で発表しようか迷いながらも、両方の立場から自分が経験した、今後発信していきたいポーテージの魅力を提案させていただきました。当日は多くの相談員の方々から、共感、熱いメッセージをいただけ、今後の活力になりました。

ポーテージの魅力発信

①   0歳児の保護者により添える
‥相談できる人がいない→成長していく姿を聴ける。
②   お子さんの今にあわせた具体的な助言
‥それぞれの発達段階、強みに合わせた支援法を提案。
③   ABAで課題解決 (問題行動も)
‥消去による効果。ABCチャートをもっと活用。
④   きょうだい児も・夫婦関係も 
…広い意味での家族支援。支部のきょうだい児のイベントも。
⑤   担当者会議で語れます
‥「障害児支援利用計画」会議に参加し、子どもの最善の利益を。
⑥   学校・支援機関・専門家と連携
‥学校・事業所訪問、課題表・記録を通して連携を。
⑦   色々な場所・ツールで相談も
…児童発達・放課後デイ等で実施・活用。オンラインでも可能。
⑧   大人になっても…ずうっと
…ABA・家族支援、本人の強みを生かす支援は、一生もの。

★そして、最大の魅力 得意技豊富な全国の相談員
   …活発な論議・情報交換を!

視点2 「幼児教育を行う施設のためのインクルーシブ保育モデルの開発」から

研究プロジェクト代表 山下由紀恵

 「幼児教育を行う施設」というのは、現在日本の、保育所・認定こども園・幼稚園を指しています。教育基本法が2006年改定され第11条「幼児教育」が教育基本法の中に入ってきました。同じ2006年に就学前の教育と保育の統合を目指した、一般に「認定こども園法」といわれる法律が制定されました。このころから就学前の保育・幼児教育の制度はどんどん変わっています。

2017年に改定された、保育所・認定こども園・幼稚園のための国のガイドライン(告示)では、学習指導要領の柱である「生きる力」の基礎として、「教育的位置づけ」が明確にそろって示されています。またこれら「幼児教育を行う施設」の「特別支援教育のあり方」も、2017年にそろって明確にでてきています。このプロジェクトは、この「幼児期に通常のクラスで行う個別支援のあり方」をモデルとして示すことを目指して、2022年度から保育現場の協力園のご意見を聞きながら、実践的に開発を進めてきました。

今回のディスカッションを通じて、次の中期計画につながる「地域と人生をつなぐ発達支援ネットワーク」構築の一発達段階として大いに貢献できると思いました。今後に期待したいです。

視点3 地域へのインクルージョンを進める児童発達支援センター等の役割

認定スーパーバイザー 木村 将夫

 当日の発表テーマは、「地域へのインクルージョンを進める児童発達支援センター等の役割」であった。近年、障害について世の中の関心が高まり、ポーテージ協会においても、スキルアップの一助として、児童発達支援や放課後等デイサービス等の障害児通所支援事業の支援者のセミナー参加が急増している。

児童発達支援センターの役割としてのインクルージョンの推進は、地域への移行や、地域の認定こども園等での並行利用や障害児保育、及び事業所での専門的支援や保育所等訪問支援・相談支援、地域資源の開発としての各施設に対する地域支援研修の開催や後方支援などが含まれるが、ますますそれぞれの現場ですべての子どもに適した専門的支援の提供が求められている。

これに関して、他の発表者との議論により、ポーテージプログラムの可能性を感じることができた。あとは、利用される子どもや保護者、家族が満足できるサービスを、ポーテージプログラムを学んだ支援者が提供できることだと思う。支援者が有効性を実感し、そのサービスを受けた子どもや家族の人生に少しでも貢献できれば、それに勝る幸せはないと思う。

視点4 『ポーテージ学齢期生活支援ガイド』の開発

 研究会代表 認定スーパーバイザー 矢作淳子

 ポーテージ早期教育プログラムは、当初は六歳までの乳幼児が対象でした。それが就学後も相談の継続を希望する方や、就学後に相談を始める方が増えて、学齢児も対象となりましたが、元々乳幼児のためのチェックリストをそのまま使用し続ける危うさも明らかになってきました。そこで2013年に『学齢期の子どものための行動支援プログラム』を発表しましたが手続きが複雑なため普及していません。一方学齢期の相談の指針を求める声も多く、今回新たに『ポーテージ学齢期生活支援ガイド』を開発したことと、生涯発達支援の観点から学齢期の子どもたちの生活支援をその後の成人期の健康で豊かな自立生活につなげようという理念などを発表しました。

この『ポーテージ生活支援ガイド』は今までのポーテージ相談の特徴を生かしながら、学齢児を対象とする配慮や、学齢児に関わる多くの人が使いやすいよう工夫を加えました。

例えば、学齢児は家庭で家族と寝食を共にすることが多いので家庭生活を重視しますが、学齢児の生活範囲の広がりを十分アセスメントして、関わる人が連携するときのツールにもできるよう考えました。

パネリスト同士の討論では、協会が40年間大切にしてきた観点を次の時代にどうつなげるのか、十分深めることができず申し訳なく思っています。今後、生活支援ガイドの普及を図る中で、その答えを考えてまいります。

フロアー感想

成長しても変わらないポーテージプログラムで

 今から45年前にアメリカから導入された発達に問題のある乳幼児へのポーテージ早期教育プログラムが、遂に日本に根付いて日本ポーテージ協会創立40周年記念大会を開催できたことは、当初から携わってきた私は大変うれしく思いました。

 そして当日のシンポジュウムでの4つの視点 「0歳からの介入」「インクルーシブ教育」「地域での役割」「学齢期での生活支援」の発表は、近年の日本社会の変化にともなう要求に、ポーテージプログラムが答えて成長してきたように思いました。しかしポーテージの本質は、個々の子どもなりの発達と、その家族の不安に寄り添う良きパートナーであることと思います。この本質だけは今後も忘れないでほしいと思いました。

 しかし、楽しかったのは前夜のレセプションです。ポーテージで育ち今は立派な社会人となったJ君からお花をいただいたこと、K支部からの紅白のおいしいお饅頭、テーブルを囲んで飲みながらの地方から来てくださった久しぶりの会員のスピーチや会話等々、お祝いムード一色のひと時でした。

  土橋とも子 (元顧問)

前日開催レセプション 創立40周年を祝う会

 コロナ禍以前は、毎年6月のこの時期に集まって顔を合わせての懇親会が、会員の大きな楽しみの場でした。今回40周年を祝う会を、久しぶりに対面で飲食をする会として開催したいという企画については、皆さんのご参加をいただけるのかと不安な気持ちもありました。しかし、企画を発表し募集を開始したところ、反響が大きく各地からの申し込み、問い合わせをいただき、企画した側としてはとても嬉しい結果でした。当日は、各地から参集してくださった皆さんの久しぶりに会えたことの喜びが満面にあふれ、とても楽しいひと時を過ごすことができました。顔を合わせてのコミュニケーションって本当に大切で、深い絆を繋げることができることを実感しました。発注したお料理が思いのほか少なかったこと、申し訳ありませんでした。

副会長 谷島 邦雄)

参加者感想

思い起こせば走馬灯のごと

 日本ポーテージ協会創立40周年本当におめでとうございます。

 思い起こせば43年前、盲学校(現・視覚障害特別支援学校)の教員時代、早期教育の重要性を痛感しているおり、当時学芸大学教授の山口薫先生主催の「カナダ・米国特殊教育事情視察」の海外派遣を命ぜられた。当時はまだ教育委員会や学校が就学猶予を出していた時代だったのでカナダ・米国の障害児教育・現在特別支援教育なかでも早期支援教育の発展に目を見張るものがありました。次年度の1983年内地留学の命を受け迷わず「山口研究室」を選び山口先生はじめ清水先生のご指導を受け、私のポーテージとの歩みが始まりました。

 米国のポーテージプログラムを「日本版にするための検証」と「視覚障害乳幼児のポーテージプログラムの作成」に取り組むことができた年でした。そこでは山口先生・清水先生はじめ土橋・吉川・髙橋先生、スタッフの方々と喧々諤々「可能性への挑戦」でした。やがて「協会」が認可され「友の会」ができ、白幡先生家族、谷島さんはじめ多くの仲間と出会えたことは何物にも代えがたい宝となっています。

 翻って創立40周年記念大会・・・新たな躍進の時代の起点として・・・(年月は長いようで短い。)パネルディスカッションより記念大会ごとにポーテージ協会の時代に応じた研究と取り組みがみられ感心させられました。とりわけ視点2・視点4は現役時代に取り組み始めたところでしたので冊子にまとめられての発表に拍手です。1から4とどの視点も現状では重要な視点だと思います。発表された先生方・スタッフの方々ありがとうございました。自己の遅々たる活動を反省しつつ。

 今後とも、ポーテージの理念を大切により一層子どもたちに寄り添ったポーテージプログラムの充実と協会の発展を心より祈念します。

・レセプション会場入れば懐かしき 思い起こせば走馬灯のごと

・想い出は尽くることなく湧き出づる 眼とづれば昨日のごとし

・五八の年輪深く刻みきて よろこび宿すポーテージの樹

・幹太く枝広やかにポーテージ樹下 笑み浮かべつつ涼む「翁」居り

・協会の友みなみなに感謝しつつ 帰路の夜空に「星の槎」見ゆ

日本ポーテージ協会元理事 会員 重藤 根治子